
ー未来へつなぐ、鴨川からの挑戦-
鴨川の可能性と私たちが向き合うべき現実
私たちが暮らす千葉県鴨川市は、豊かな自然と多彩な地域資源に恵まれた、世界に誇るべき地方都市です。
しかし、その視点を地球規模に広げれば、私たちはこの惑星に共に生きる一員です。
今、私たちには、鴨川という地域の未来を、地球全体の視点から考えることが求められています。
また、鴨川市は、農業・漁業・観光・商業・医療・福祉・教育・スポーツといった多様な資源を有し、東京からアクアライン経由で100分という利便性も兼ね備えています。
その一方で、これらの豊かさの源泉である農業は、深刻な高齢化と担い手不足という大きな課題に直面しています。
私たちは、鴨川の第一次産業を、単なる生産活動としてだけでなく、「国土の保全」「食料自給」「地域文化の継承」という国家的な視点から捉え直し、未来へと続く新しい地域社会のモデルとして再構築すべき時を迎えています。

国の政策転換は、鴨川への「追い風」
先日、中山間地域活性化協議会主催の国の農業政策に関する講演を聴講する機会がありました。
農林水産省の担当者から「農業・食料・農村基本計画」の概要が説明され、これまでの「量の確保」重視から、収益性や環境との調和、そして食料アクセスの保障を重視する新たな方針への転換が明確に示されました。
この国の大きな方針転換は、中山間地域が多く、農業従事者の高齢化や後継者不足に直面する鴨川市にとって、まさに追い風です。 国が掲げる「稼げる農業」への転換や、地域資源を活かした複合経営の推進は、鴨川が最優先で取り組むべきテーマだといえます。

鴨川発・参加型の未来設計図 ―農業を「自分ごと化」する仕組み―
「農業を守り、次世代につなぐ」とは、どういうことか。
私たちはその意味を、根本から問い直す時期に来ています。
鴨川の棚田やみかん山、里山の風景には、単なる農地を超えた、人々の暮らしと記憶が息づいています。その土地を守ることは、自然環境を守り、地域文化を未来へつなぐことに他なりません。そこで私たちは、「鴨川発・参加型農業モデル」を提案します。
このモデルのキーワードは、地域に関わるすべての人が農業に従事する方々と共に「農業を自分ごと化」する仕組みの創造です。
農業を、もはや農業従事者だけの責務ではなく、市民一人ひとりが関わるべき社会全体の課題として捉え直す仕組みを作りたいと考えています。
一つの具体例を挙げれば、耕作放棄地となりつつある農地を含め、専業農家の方々の協力のもと、米作りのノウハウをまとめた「マニュアル」を整備し、誰もがその知恵と工夫を学べるようにします。
それぞれの地域における米一粒に込められた手間と想いを肌で知ることは、「なぜ農業を守るべきか」を自らの言葉で語るための第一歩となり、具体的な地域参加へとつながるでしょう。
ここで行う農作業体験は、単なるイベントとは一線を画します。土の匂いを感じ、仲間と汗を流す時間が、人手不足に悩む農家さんにとって大きな支えにもなります。
それは、スーパーに並ぶお米の背景にある物語を、自らの体で知る学びの機会です。
そして、秋に迎える収穫は、自分の手で「生きる糧」を得るという、何にも代えがたい感動へとつながるでしょう。
これはまさに、心と体で「学びながら、守り、生きる」ことを実感する、かけがえのない体験となります。そして、農業に関心を持つ機会の創出になり担い手育成にもつながるようになるような試みです。
また観光との連携も、大きな可能性を秘めています。大人は農作業で土に触れる喜びを、子どもは自然に触れたり、鴨川シーワールドで生き物とふれ合ったりする感動や自分たちの食べるお米を自分で作る喜びを。
そんな風に、家族それぞれが鴨川の魅力を満喫できる「滞在プログラム」は、都市住民にとって、単なる旅行ではない「特別な体験」として心に刻まれる、新しい休日の過ごし方になるでしょう。

具体的な活動方針案
この構想を実現するための具体的な一歩として「(仮称)鴨川未来農業プロジェクト」の立ち上げを提案します。
これは、農家、企業、市民、そして地域外の応援者などが一体となり、民間主導で地域の第一次産業と国土を守り、未来の子どもたちへ豊かな暮らしを引き継ぐための活動基盤です。
「(仮称)鴨川未来農業プロジェクトの具体的な活動方針案」
運営母体: このプロジェクトを推進するため、地域で活動する人々の「つなぎ役」となる民間組織が中心となります。既存の組織を基盤とし、今後賛同いただける方々と共に将来的にはこの構想の受け皿となる新たな一般社団法人も視野に入れています。
現在、営農組合、個人専業農家、兼業農家、他農業に携わる方々、市内の一般社団法人、地域貢献活動を実践されている団体、農業の新しい形に挑戦している法人や民間企業の方々とその仕組みづくりを下記のような内容で進めております。
*ご意見・ご興味のある方にはぜひご参加いただきたいと思っております。
企業連携の強化: 地域企業のCSR(企業の社会的責任)活動と連携した農作業支援プログラムを構築し、企業と地域が共に成長するモデルを目指します。
市民参加の促進: 皆様の協力体制による農業・地域産業支援活動を活発化させます。また、自治体、民間企業、団体などで働く方々が就農に関心を持つきっかけとなる支援システムも検討します。
多様な担い手との共生: 外国人労働者の方々が、生活・教育・就労の面で安心して地域社会に溶け込めるよう支援します。
持続可能な農業経営: ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の導入などを推進し、農業収入の安定化と地域のエネルギー自立を目指します。
モデルの横展開: 本プロジェクトをモデル化し、近隣地域のみならず、鴨川の魅力アップにより全国にアピールしてまいります。

新たな価値創造 ― Jクレジット活用で、自然を経済の力に―
鴨川の豊かな山林は、二酸化炭素を吸収し、生態系を支える貴重な資源です。
この目に見えない価値を、「Jクレジット制度」やその考え方を応用した新たな仕組みなどを活用して「見える価値」に変え、企業の環境投資や国際的な気候変動対策への貢献に繋げます。
これは、鴨川の自然が「地球温暖化」という世界的課題の解決策の一端を担い、新たな経済循環を生み出す挑戦です。
守り継ぐべき風景に経済的な裏付けを与えるためのきわめて有効な一手となり得ます。
これらの試みは現在、様々な団体、関係者と試行錯誤を重ねており、その詳細は改めてお知らせします。
*Jクレジット制度とは
Jクレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用による二酸化炭素等の排出削減量や、適切な森林管理による二酸化炭素の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。この制度は、国が主体となり、厳格な基準のもとで運営されている信頼性の高い制度です。
制度により創出されたクレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できるとされています。
「人が関わり続ける」ための制度改革へ
これからの農業は、地域と多様な人々との関わりの中で実現していく、新しい仕組みが必要です。
そのためには、現行の農地制度や土地利用の規制を見直し、「人が土地に関わり続けること」そのものを「農の再生」と捉える柔軟な発想が不可欠です。
それこそが、持続可能な地域の風景と暮らしをつくる鍵となると私は確信しています。

結びに -鴨川から、未来への新しい提案を-
「農を守る」ことは、もはや専業農家だけの役割ではありません。
農業は、限られた人に任せておけばよい時代を終え、いまや私たち一人ひとりが、「自分のこと」として、何らかの形で関わっていくべき課題になりつつあります。
地域に関わるすべての人が、それぞれの立場で関わり、支え合うという「つながり」こそが、これからの時代にふさわしい「農のかたち」だと、私たちは考えます。
鴨川には、この挑戦を受け止める豊かな土壌と、無限の可能性があります。
「自然と人をつなぎ、農と観光を結び、体験と経済を循環させる」これは、未来への確かな投資であり、鴨川から日本、そして世界へ発信する、新しい地域づくりの提案です。
ぜひご理解いただき、共にこの未来設計図の実現を目指したいと考えております。